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対談

総合診療専門研修の開始と病院総合診療医へのテキスト

語る人

日本病院総合診療医学会副理事長
広島大学病院総合内科・総合診療科教授
田妻 進

日本病院総合診療医学会理事
横浜市立大学名誉教授
長谷川 修

日本病院総合診療医学会理事
九州大学総合診療科准教授
古庄 憲浩

日本病院総合診療医学会理事
順天堂大学医学部総合診療科教授
内藤 俊夫

聞く人

日本病院総合診療医学会理事長、九州大学名誉教授、原土井病院九州総合診療センター長
林 純

近年の医学の発展の目覚ましさには,異論はありませんが,その一方で医学が臓器別に細分化され,病院を受診する患者さんがどの科に受診して良いかわからない,あるいは多くの専門診療科を受診しなければならないという現象が起こっています。このことを,故日野原重明先生が40年前頃予見し,「総合診療医,Generalist」という考え方をアメリカから我が国に導入され,大学病院にも総合診療科/部が設立されました。その後,identityが明確にされないまま時間だけが経過していきましたが,やっと平成30年度から総合診療専門研修がスタートすることになりました。これを機に私ども日本病院総合診療医学会としましては,病院総合診療を実践している若手医師,あるいは目指している若手医師や医学生のためにテキストを作成しました。
 本日の話の流れは2つで,今度できました総合診療専門研修プログラムとテキストの件で,これらに深く関わって頂いた先生方のお話を聞かせて頂ければと思います。
 最初にプログラムの話からになりますが,2012年に日本専門医制・認定機構が総合診療に関する専門医制を検討し始め,日本プライマリ・ケア連合学会理事長丸山泉先生から,「総合診療が一般に認知されるよう協力してやりましょう」とのお話がありました。私が参加した「総合医(仮称)に関する検討会」で,2012年10月1日に「総合診療医」と呼ぶことが決まり,その年の12月26日に日本医学会会長の髙久文麿先生のもとで,これが正式に決定されました。それからすぐプログラムができると思ったのですが,紆余曲折がありまして,やっと今回の運びとなりました。
 まず最初に,何といっても,この労を執っていただいた田妻先生に,このプログラムのことについて少しお話ししていただきたいと思います。
田妻
専門医機構では昨年までの役員構成の中で,総合診療専門医を育成する,あるいは制定するための話し合いが行われたと思います。その後,役員の改選に伴って,動向が少し変化したやに一般にはプレスリリースされたと思います。要するに,国民の側にこの総合診療専門医はどういう専門医なのかがきちんと周知されていないのではないかとの疑念が根幹にあったと思います。
 それと,日本プライマリ・ケア連合学会が既に提出をしていた,家庭医療が主体となる専門医の育成のプログラム案では総合診療専門医の育成には十分ではない,総合診療医と家庭医とが混沌としたため,塩崎厚生労働大臣が1年待ちたいと発言されました。そこで,専門医機構側も役員の構成を少し変えて,新しい立ち位置,キャビネットで,この制度について本格的に取り組んできました。また,本学会は,林理事長がご尽力なさって,プライマリ・ケア連合学会の丸山理事長あるいは関係の先生々とお話しになって,関係機関に,病院総合診療医学会としての総合診療専門医のあり方についてのお考えを提示されたことから,少し展開が起こり始めたということでございます。
 その後,何回かの会議を経て,まずはプログラムを作るワーキングが立ち上がりました。内科学会,救急医学会,小児科学会の方々も参入されて,既に提出されていた専門医の育成プログラム案をたたき台として,プログラムの修正が始まった。そして,ワーキングの最終案として出たものについて,今度は総合診療専門医を考える委員会というところで,今後育てたい専門医の人数とか,認定施設になるにはどういう条件が望ましいかとかが話し合われて,最終的に,日本医師会,病院協会,あるいは地域医療の担い手である中小病院のまとめ役の先生方も委員となり,最終案が決定しました。それで今回,既に審査が始まっていた応募内容が世間にプレスリリースされました。
委員の皆さんが危惧されたのは,大学病院が主体となったプログラムでは,卒後3年目から5年目の専攻医が,地域の病院で仕事に従事する機会が減るということですね。
田妻
これは多分,内科学会も同じような立ち位置だと思います。何分ポピュレーションのこともあって,大小の差がありますので,総合診療医を目指している医師がそんなに大きな影響を与えるとは考えにくいのですが,日本医師会の委員は,内科の専門医制度と同じような危惧を感じていたようです。
 最終的に,たたき台として出されていたもので一番大きく変わったのは,総合診療専門研修を行う施設を1と2に分けたこと,なおかつ,内科という診療領域を基本のスキルとして磨いておくべきだということです。
 それで,もともと内科での研修は6ヵ月以上であればいいと言っていたものが,1年間しなければならないとなりました。なおかつ,専攻医の人たちに対するベネフィットになるという考えでJ-OSLERにも登録して,内科に行こうとしたとき,それが流用できるようにしました。
 総合診療専門研修施設の2と1というのは,2は大病院で,この学会の主たる母体となっているような施設の方々が受け入れられるところ。1は診療所とか小病院で,主に在宅医療を担当するところです。小病院でも認定されるに足る施設であるという見方になったので,プログラムの中身が病院側に少しシフトしたという印象です。
在宅医療というのはかなり浸透していて,中小病院では既に地域包括ケアとして医師をクリニックに派遣していると思いますが。
田妻
そこに専攻医が行くことは,総合診療専門研修の認定施設1として認めることになり,正直申し上げて,病院で総合診療医を育てようとしている側には受け入れやすいものになりました。むしろ,一人の診療所とか,公的な診療所で公設民営をやっているところは,専攻医を迎え入れることができるのだろうかとの心配はあります。
そういうことで,いろいろと議論はありましたが,一応,僻地で6ヵ月の診療をするのが望ましいということを日本医師会の先生が一生懸命に主張されたため,一般の病院が作るプログラムにはそれが必要だというニュアンスが強くなりましたね。
田妻
一方で,大学病院のように若手医師を育てるところは,仮に総合診療認定施設の2として入院の実績が不足していても,病院のネットワークで専攻医を動かすことによって補足できるプログラムを立案できることになりました。教育機関である大学病院では,病院により総合診療科/部の役割の違いがあり,外来業務を中心とし入院を受けていないところもありますが,そういう病院でも,基幹病院としてプログラムを立ち上げて,関連病院ネットワークの中で医師を育てることが可能なプログラムに少しずつ修飾されました。
現在,提出されているプログラムで審査が行われていますね。
田妻
その審査は委員会で強くリーダーシップをとられた日本医師会の先生が先頭に立って審査をしておられます。まず事務的に評価し,これは施設の条件に合わないと思われる場合,そのプログラムを出している病院に,訂正が必要な箇所などについての議論を直接電話で行っており,かなり本気で取り組んでおられます。そういった中で,今後見直しをされて,登録は多分11月ぐらいに少しずれ込んで,専攻医が決まっていくと思います。
質問ですが,総合診療専修医の3年間が終わった後,内科専門医のプログラムに移行出来るのですか。
田妻
行けます。ダブルボードが認められておりまして,専攻医として内科を1年間研修しますと,その1年間の症例がJ-OSLERという登録システムの中に蓄積されて,内科が規定しているプログラムをあと2年充足すれば,内科専門医も取れることになっています。ですので,総合診療専門医も取れて,内科専門医も取れますよということになっています。
それは総計5年間研修すれば取れるということですね。
田妻
そうですね,最短で5年ということです。
わかりました。逆に,内科の専門研修を終了して,さらに総合診療専門医も取りたいという医師がいた場合,例えばプラス2年間,総合診療研修プログラムの総合診療に関係するところで研修すれば良いのですね。
田妻
そのとおりですね。次にこの学会の立ち位置として重要なのは,サブスペシャリティーのどういう位置づけを目指すかだと思います。
では,実際にプログラムを出されているお二人の先生にお伺いします。まず,九州大学の古庄先生,お願いします。
古庄
昨年の総合診療専門プログラム作成時と異なる点のひとつに,内科研修12ヵ月間以上が必修として含まれています。内科または総合診療を目指しているけれどもまだ決めきれないという専攻医が総合診療プログラムに入り,内科専門医または総合診療専門医の2つの選択肢があるという点で柔軟性があります。福岡は,初期研修医が多く集まるトップ5の地域で,すべての専門医プログラム専攻医数が制限されるかもしれません。内科プログラムに入りたいけれども定員超過で入れない場合の受け皿にもなり得ます。研修医には総合診療専門医を取得して欲しいところですが,まずは研修医が来てもらわないと総合診療医の良さをアピールできませんので,このようなプログラムの変更点は悪くないと思います。
では,順天堂大学の内藤先生はどうですか。
内藤
田妻先生がおっしゃったように,我々の最初の目的は,総合診療専門研修をとにかく始めるということだったので,それは果たせたので良かったと思います。
 議論の中で私が一番ひっかかったのは,本来は総合診療医を増やすということが大前提にあったはずなのに,定員を都心部と地域でどうするかみたいな話に終始していて,総合診療科の枠の中で大学が多過ぎるので地域を増やすべきみたいな話になっていて,そのようなスケールが小さいことを,総合診療部会の中でその話をしていても意味がないと思いました。大学であっても定員2名を前提にされているので,順天堂大学はとてもそれでは回らないと思います。そういった議論のときに,本来,内科なり他の専門医研修も地域医療機関に行くべきですけれども,総合診療医だけが地域に行くべきだというような話になって,納得できないところがあります。
先生のところのプログラムの特徴はどうでしょうか。
内藤
皆さんのところもそうでしょうけれども,大学病院というところで,同時に博士号,学位が取れるというのを一つの目標にしていまして,いわゆる国際的な学会の発表とか,3年目では必ず海外の学会で発表するというところまでをプログラムに組み込んでおり,地域の一般病院で専門医を取ることと大学病院で取ることの違い,メリットとして,研究も同時に進められるというところを前面に出しています。
古庄
幸いなことに,九州大学の専門医プログラムに参加したいという施設が22施設あり,県内のプログラムとして最多の協力施設数になりました。22施設の中,総務省の過疎地域自立推進特別措置法に定める過疎地域に該当する僻地にある施設が6つあり,それらを中心に研修をしていただくので,私どものプログラムはまさに地域医療に密着したものと自負しています。もちろん大学でも研修もしていただきますが,その点は臨床研究を同時に行い,臨床大学院(感染制御医学)を薦めるつもりでした。そこで臨床研究を含むためプログラム期間を3年間か4年間にするか非常に迷ったのですが,他のプログラムと異なる期間ですと専攻医に不利になるかもしれないと考え,最終的に3年間のプログラムとしました。その後に大学院進学の選択肢を用意しています。
今回のプログラムで研修しながら,大学院に同時に行けるのですか。
古庄
今のところは同時に行けるというプログラムではありません。
例えば,自分は臨床もしたいけど研究もしたい,大学院も入りたいということはできるのですか。
内藤
私の方は同時進行させます。
同時進行できるのがいいですね。
古庄
同時にできるようにします。
田妻
多分,社会人枠大学院というのをどの大学も作っていると思うので,その規定に従っていれば全然問題ないです。
九州大学と順天堂大学のプログラムについて,田妻先生から何かサジェスチョンとか,加えることはありませんか?
田妻
定員のキャッピングというのはかなりデリケートな問題です。このときに非現実的だなと思った議論が1つあって,既に400近いプログラムを提出されていた昨年の実績がかなり足かせになっていると思います。そこに出てきている1,000名以上の全国の総合診療の定員は,年間に発生する新しい医師が9,000名と考えると,その4分の1程度にまで上っているので,その定員は非現実的だったと。多分そのことはかなり衝撃になっていて,そこまで人が流れるのかという危惧を持った委員がおられました。それで,6都府県にはキャッピングをするということ。例の初期研修のキャッピングのロジックをそのままこの議論に当てはめられてしまったので,そこは聞いていて何となく非現実的だなと私も感じていました。
 ただ,何度も繰り返されておりますように,スタートが大事なので,たとえ少数とはいえスタートしていくと,もしその希望者が定員数を上回っていることが現実にわかった場合,必ず増えてきます。ですので,まず初年度はどうかというのが大きなポイントだと思います。
定員というのは何名ぐらいですか。
古庄
専門医機構からは2名と指定されましたが,九大プログラムは10名という枠で希望します。その理由として,九大のプログラムでは指導医が30名以上いますので,3年間で60名の専攻医を募集が可能ですが,10名の枠できめ細かに指導ができます。
内藤
私の方は5名で出しています。内科は過去実績の1.2倍というのがあるみたいなので,それに準じています。内科の専門も同時に募集しているので,場合によってはそっちでバランスをとるしかないかなと思っています。
病院総合診療医学
「病院総合診療医学」大道学館出版部刊(定価 本体6,481円+税)
長谷川
総合診療医が最近クローズアップされてきた理由は2つあります。1つは,医師不足に対応して,一人一人の行う医療の範囲を少し広げようではないかという意味です。もう一つは,超高齢社会では,様々な疾患を併せ持つ患者がものすごく増えてきます。この2つの理由によって,総合診療医のニーズが非常に高まってきています。総合診療医を養成しない形で日本全体の医療を賄おうとすると,これから先,非常に苦労することになります。だから,これらのニーズにマッチする総合診療医育成であることを前面に出すべきと思います。
 そういった意味で,新しい制度が始まって,本当に総合診療医を育てた結果,現在の医師不足あるいは高齢者が多い世の中に対してこれだけ貢献ができたというアウトカムを示していくことで,今後,認知をだんだんと広げていくことができる分野だと思っています。また後で,教科書の項で話したいと思いますが,総合診療専門医の育成は,このような背景を忘れない形で続けていきたいと思っています。
私も今,いわゆる地域医療機関で週4~5日外来診療をしていますが,高齢者が増えていることを実感しており,その高齢の患者さん方が多くの疾患を患っており,これを全部専門診療科にかかったら大変なことだなと思い,総合診療医の必要性を再認識しているところです。
 では続きまして,本日のもう一つのテーマに移ります。私どもの学会のバイブルといいますか,テキストといいますか,『病院総合診療医学』という本の販売を,明日,9月14日に開始致します。これは症候編と病院管理編の2つに分かれていますけれども,まずこのアイデアを出していただいたのは長谷川先生ですので,長谷川先生から一言お願いします。
長谷川
議事録で確認したところ,平成26年2月の理事会で提案したのが最初だと思います。第一は,総合診療医学というのは一体何か,特にこの学会の主題である病院総合診療医学とは何か,という問いかけに対して答えられるものを用意しておく必要性があること。第二は,この病院総合診療医学をこれから大学で学生に教えて,研修医に教えて,その後の専門医を育てていく際に学問体系をしっかりさせておく必要がある点が教科書作成の背景にあります。
 ですから,学問体系を明確にし,病院総合診療医学の中身を示した本です。例えば,内科では心疾患には先天性心疾患,心筋梗塞などがあってというアプローチをするけれども,総合診療医学では症候から入り,そこからどのように考えて診断にたどりつき治療するかという,アプローチが異なるため,まず症候編を組みました。もう一つは,内科に比べて,さらに地域と密着して住民の生活を大切にします。家庭医療では在宅という形で密着しますが,病院でもその考え方をもとにしながら,同じ方向に病院全体を持っていくようなマネジメントが必要と考えられることから,病院管理編を第二部としました。この2つを頭に出した学問体系の提案をしたわけです。
 今回の教科書作成を通して私たちは,病院総合診療医学の定義に関する提案をしました。私たち学会は病院総合診療医学をこのように考えていますので,これを参考にしてこれからの医師教育を行ってほしいし,各病院で病院総合診療医が活躍してほしいと願っているわけです。けれども,この内容は時代時代のニーズに応じて少しずつ変化していくと思います。総合診療医学というのは,ニーズ・ベースド・メディスンという別の面も持っていると思っていますが,その世の中のニーズに応じて少しずつ変わっていく。そういった意味で,今回はこの形で提案させていただいたのですが,今後のニーズに応じて適宜改変していくことが必要と思っています。
ありがとうございました。監修した私が言うのもおかしいのですが,素晴らしいと思いましたのは,症候というか,まず症状から診断を考えていく,これは未診断の患者を診療する機会が多い総合診療医にとって大切なことなので,ここまでは当たり前かなと思ったのですが,さらに病院管理編があることです。実際に,私たち総合診療医は何となく院内感染対策や医療安全の管理を頼まれたり,災害医療の責任者を頼まれたり,それからワクチン接種などの予防医療も依頼されることが多いように思います。さらに,先ほどありました高齢者のことについてもこの本に載っていますので,自画自賛ですけど,これは本当に素晴らしいと思っています。
田妻
最初に教科書が必要だという議論をしたのは鮮明に覚えていて,この学会の屋台骨となるものが必要だと,この理事会にまだ先代の先生方がたくさんおられるところで提案したと思います。長谷川先生には非常によくお考えいただいて,ここまでコンテンツが整理されて,なおかつ,理念もしっかりとあらわれたものになっていて素晴らしいなと。最初の症候編のときに,何となくライフスパンが短い教科書になることがリスクとしてあるのかなと感じましたけれども,その後ろにマネジメントが入ったので,これから進化していくというニュアンスが残ってとても良くなったなと,とても素晴らしいアイデアだなと思いました。
 今後,病院というふうに規定するのがいいのかどうかということが議論になっていくと思います。総合診療医学とは何か,それと病院総合診療医学はどこが違うのかと,そういうことでまた新たな話題が出てくるのかなと思いますけれども,少なくとも,この学会が次に,サブスペシャリティーとして,外科救急の先生に加えて,総合診療専門医の先生を受け入れる2番目の組織になるとき,目指すものとしてこれがバイブルとなって,ここからこまごまとしたカリキュラムを作っていくことになりますから,そういった意味では,非常に企画をしやすい素案となるものができたことを大変歓迎しております。先生,ありがとうございました。
古庄
従来の症候学のテキストはそれぞれの専門医がわかりやすく書いていますが,疾患の頻度にこだわらずに説明しているようにみうけられます。当学会テキスト中の症候編は,総合診療医がまさに日常診療でよく遭遇する疾患を鑑別するように明記されていますので現場に則して説得力があり,教える側として役立ち非常に助かっています。さらに,専攻医の前段階の,卒前・卒後の連続した教育を行うことを実践していくために,学生や卒後すぐの研修医という初期の段階から症候学をきちんと学ばせることが重要と考えます。総合診療医として,症候を大事にして患者の全体像を把握して診断にいたるという点で非常に良いテキストができたと思います。また,病院管理編においては,総合診療医として,学校健診やワクチンなど保健事業や地域住民検診などについても詳細に解説されていますので,他に類のないテキストと思います。総合診療医のための質の高いテキストができ上がり本当に嬉しく思います。
内藤
症候部分と病院管理に分けたという,その二本立てというのはすごくいい考えだと思います。恐らく若い先生方は症候学が面白くてこの分野に入ってくる。その上で何を高めていくかというと,将来的には,病院を管理していく立場になるのに総合診療ほどいい学問はないので,そういった意味で,そこを目指していくとか,病院管理におけるクオリティーを保つための研究とか,そういったものが今後,病院総合診療医が研究するべき分野になってくるのではないかと考えていて,そういうものの土台となる教科書ではないかと思っています。
 例えば,特定機能病院の院長になるには,医療安全の経験がなければいけないとか,そういうものが出てきます。今回……でもその医療安全講習会とかをやるつもりではいるのですが,そういった部分から,医療安全のところとか……になるなら,当然,医療保険の問題とか,そういうものも必要になります。そういった部分の教科書が今までなかったわけですので,できたというのは非常に意味があると思っています。
長谷川
今回,現時点での学問体系を作成したことを受けて,これをもとに今後各方面での研究が進むことを期待しています。もちろん教科書を日常業務や医師を含めた医療スタッフ教育に用いることが最も大切ですけれども。
このテキストは,2016年2月26日に開催されました第12回日本病院総合診療医学会学術総会のシンポジウム「病院総合診療医経の期待-院内から,地域から」で議論された病院総合診療医の役割は,1.あらゆる疾患,病態の患者でも診察する,2.救急医療も行う,3.未診断患者に対する診断,4.チーム医療の要となる,5.若い医師,コメディカルの教育,6.家庭医と連携をとり支援し,専門医とも連携をとり専門的治療も実施,7.高齢患者の診療,8.臨床研究や疫学的研究を通じて医学の発展への寄与,9.予防医学を実践する,10.地域包括ケアの要となる,でした。以上のことがほとんど含まれており,病院総合診療医にとっては有用なテキストと思います。改めて,このテキストを執筆して頂いた先生方に感謝申し上げますとともに,総合診療専門研修が開始されることを,会員の皆様とともに喜びたいと思います。

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