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対談

対談 大学病院における歯科部の役割

語る人

九州大学病院副病院長(歯科担当)
中村 誠司

聞く人

遠賀中間医師会おんが病院・
おかがき病院総括院長
「臨牀と研究」編集委員
杉町 圭蔵

杉町
中村誠司先生におかれましては,何かとお忙しい中,本日は『臨牀と研究』の対談においでいただきまして,本当にありがとうございました。
中村
こちらこそ,お声をかけていただいてありがとうございます。
杉町
この『臨牀と研究』は,毎月,臨床の最前線の情報をお届けしていまして,医科向けの特集が多いのですが,歯科向けは,これまでほとんどあまりありません。
中村
以前,周術期「口腔ケアは全身の健康に貢献する」という特集を企画をさせていただいたことがあります。でも,それぐらい数少ないですね。とてもまれです。
杉町
口腔内の問題は医科にとっても非常に関係が深いので,本日はどうぞよろしくお願いします。
中村
こちらこそよろしくお願いいたします。
杉町
『臨牀と研究』は,大正13年,1924年に創刊されていますので,もうすぐ100年という素晴らしい,日本でもナンバー・ワンと言ってもよいくらいの伝統のある雑誌です。
 ところで,先生は筑紫丘高校のご出身と聞いていますが,何年のご卒業ですか。

筑紫丘高校の想い出

中村
昭和51年の卒業です。
杉町
お若いですね。実は私は昭和32年に筑紫丘高校を卒業しまして,大先輩ということになりますね。
中村
はい,それはもう大先輩です。
杉町
最近,筑紫丘高校は,修猷館高校とか福岡高校とほとんど肩を並べておりまして,高校の入学試験も大変難しくなっていますけれども,私のころは,定員400人で,受験生がたしか410人ぐらいですので,よっぽど何かない限り全員通ったという良き時代でした。
中村
僕らのときは450人, 男子が300 ,女子が150人という時代でした。男子クラスというのがあって,僕は2年間は男子クラスでした。
杉町
筑紫丘高校のレベルは最近上っていますね。
中村
修猷館高校,福岡高校, 筑紫丘高校は,やっぱり優秀なんですね。
杉町
筑紫丘高校はもともと男子の旧制中学でしたから,どうしても女子は少ないですね。私は3年間,共学のクラスになれなかった。
中村
修学旅行に行くと,お店が狭いから,僕らの男子クラスのバスが行くと男女クラスのバスは出て行って,女子学生をほとんど見ることなく終わりました。
古山(編集部)
私たちのときは男8人に女の子が1人だった。 私はずっと共学でした。
中村
僕らは倍ですね。2対1。
杉町
古山さんは何年卒業ですか。
古山
17回卒だから何年になるでしょうか。
中村
僕は28回だから,古山さんより11若い。昭和40年卒です。
杉町
古山さんも大先輩ですね。

歯学部首席卒業

杉町
先生は,聞くところによると,昭和57年に九大の歯学部を首席で卒業されたそうですね。
中村
それは多分,先生と九州中央病院でご一緒だった堀之内先生の情報ですよね。
杉町
そうです。学生時代からすごく勉強が好きだったんですね。
中村
そんなことはないですけど,集中力だけはありました。
杉町
勉強ばかりしていたというわけではないでしょう。
中村
僕は,高校,大学と野球をしていましたから。でも,試験前と授業中だけはしっかり頑張ろうと思って,試験がなければ家では勉強をほとんどしませんでした。
杉町
首席になるのはなかなか難しいですよね。
中村
いや,そんなことはないですよ。
杉町
よっぽど運も良かったのでしょうね。
中村
そのとおりだと思います。あとは,医学部と違って歯学部には実習がある。実習は結構得意なほうだったので,多分そっちで点数を稼いでいたのではないでしょうか。
杉町
実習も点がつくのですか。
中村
つきます。だから試験だけではないですね。
杉町
患者さんに,実際にやるわけですか。
中村
それもありますし,その前に模型を使った実習があります。歯科の学生には今でも,卒業前にきちんと患者さんの歯を削るところまでできるように指導します。
杉町
患者さんはいい迷惑ですね。
中村
ですけど,マンツーマンで指導医がつきますし,とても丁寧にします。今は,医科ではスチューデント・ドクター,歯科ではスチューデント・デンティストという称号を与えるようにしていますから,きちんとした共用試験を通った者がやる。うちの家内は筑紫丘高校の同級生でして,学生時代に全部治して,もうあれから30何年たちますが,先日1本だけ外れたくらいです。倍以上の時間をかけて丁寧にしますから,必ずしも悪いことではない。きちんとチェックはします。

虫歯治療だけの歯科医は病院には向かない

杉町
私は平成14年に九州中央病院に赴任したのですが,実は九州中央病院の歯科では虫歯の治療を中心にやっていました。虫歯の治療は開業医の先生に任せて,病院には麻酔科がありますから,全身麻酔が必要な口腔外科をやるべきだと思っていました。
中村
生首を切るのはとても……。
杉町
難しいですね。その先生は虫歯の患者さんからもいろいろクレームがありました。
 九州中央病院には,口腔外科の先生が必要だと思い,口腔外科の教室に行き,「口腔外科の先生が欲しい」と教授にお願いしました。当時,たまたま堀之内先生が医局長をされていて,3人ほど推薦してくださった。しかし,その3人の先生ではなくて,堀之内先生がいい,この人が欲しいと。それで,堀之内先生を口説いて九州中央病院に来ていただいた。彼はいいですね。
中村
はい。彼は大学の同級生です。杉町先生のお声掛けで大学を出て,今,病院歯科ですごく活躍していて,いろんな本を書いたり,講演をしたり,全国的に名が通っています。医科のほうは,小さいクリニックから特定機能病院までピラミッドがしっかり確立している分野ですけど,歯科医師の90数%は個人の病院だから,ピラミッドがない。底辺が大きくて,そこにポーンと大学病院がある。福岡の場合,九州中央病院には堀之内先生,あと九州医療センターにも僕の同級生が行っています。だから,今ようやく3段構えになろうかと。少なくとも,関東,関西,大阪のほうに行くと,その3段構えはしっかりしてきています。大学病院に来る前に,九州中央病院とか九州医療センターのような病院を経由するというのが,大都市ではできてきていますね。僕はそれを全国的に推進すべきだと思っています。病院の口腔外科ではもう一般の歯科をする必要はなくて,周囲の歯科医師会と上手に連携して受け皿になっていただく,これが歯科全体のレベルアップにつながると思います。
杉町
話は変わりますが,先生は当時,アメリカのバージニア大学に留学されていたのですか。
中村
はい。大学院のときは,杉町先生もよくご存じの生体防御医学研究所の野本亀久雄先生の免疫学部門のほうに行って,実際の指導医は姫野國祐先生でした。それと久保千春総長も同じ部門で研究をされました。僕は,大学院が終わって歯科に帰ったら独立しないといけないけど,まだ免疫をやり足りない,もうちょっと研究したいと思って留学を志した。そして,今の福岡市立こども病院院長の原寿郎先生の後任で,まずオクラホマ医学研究所に行った。久保総長も同じ研究所に留学されました。そこから,うちのボスが2年でバージニア大学に引っ越したので,ついていきました。2年,2年で,4年ぐらいアメリカにいました。
杉町
アメリカでもやっぱり免疫関係の仕事をされていたのですか。
中村
そうです。
杉町
口腔の免疫ですか。
中村
いや,全身的な免疫です。ただ,免疫には局所も全身もあまりないという考えもあって,とにかく分野を問わず,友人から「虫歯の免疫をするの?」と聞かれましたが,僕は全くこだわりませんでしたので……。でも,野本先生のところではほとんど動物実験でした。その頃,二外科の先生方は,肺癌の組織を持ってきたりとかして研究をされました。
杉町
そうですね,胸腺を切除して動物実験を一生懸命されていましたよね。
中村
アメリカに行って人の細胞を扱うようになった。それから,日本に帰ったらどうしようと思って,口腔ではいろんな免疫が関係する病気もあるということで今の仕事に入りました。
杉町
私が九州中央病院にいるとき,アーリーバードという早朝の勉強に,アメリカから帰国された直後の先生をお招きしたことがありましたが,覚えていらっしゃいますか。
中村
はい,よく覚えています。杉町先生は大先輩ですから。
杉町
先生は非常に若くて教授になられていると思いますが,お幾つのときになられましたか。
中村
僕は46歳で教授になりました。
杉町
すごいですね。
中村
ただ,僕の先々代教授の田代先生は20年間在職されたらしいです。
杉町
先生も定年まで20年ぐらいではないですか。
中村
僕は19年。田代先生から,「中村君おめでとう。僕は20年だったけど,君は1年短いな」と言われたのをよく覚えています。

九大の歯科は細分化され過ぎていませんか?

杉町
九大病院の歯科は,私ども医科から見て,診療科が非常に細かく分かれていますね。私が数えたら12もありました。細分化されすぎではないかと思うのですが,先生は口腔外科の中でも顎口腔外科ということになっていますが,口腔外科は幾つかに分かれているのですか。
中村
口腔外科は2つあります。
杉町
もう一つは何と言うのですか。
中村
診療科としては2つが一緒になって顎顔面口腔外科という大診療科を運営しています。歯学研究院の方では2つの分野に分かれていて,僕の方は顎顔面腫瘍制御学で腫瘍が専門です。もう一つが口腔顎顔面外科といって,顎変形症などの形成外科的な手術をやります。専門によって分野を2つを分けています。
 僕は歯科担当の病院長として7年目になるのですが,歯学部の教室そのままの診療科が残っています。それを今,教育としては必要だと思うのですが,診療単位としては細かく分かれ過ぎているので,どんどんコンパクトにまとめることができればと考えています。だから,口腔外科も,教授は2人いるけれども,診療科としては一緒にやっています。回診も一緒です。そうやって少し診療科の単位を大きくして,患者さんがたらい回しにならないようにしたいです。
杉町
そうですね。あまりたくさんあり過ぎると,患者さんはどこに行っていいかわからないですよね。
中村
欧米では,歯科,口腔外科,矯正歯科,この3つぐらいです。それぐらいコンパクトにしても良いと思っています。
杉町
12の各科に教授,准教授,助教とか,いろんなスタッフがいますから,細かく分かれ過ぎると,一つの診療科の力というか,マンパワーも足りないでしょうし,人件費ばかりかかって大変ですよね。
中村
それを大きく4つくらいにまとめることが可能と思います。
 実は住本医学部長と同級生でして,彼は修猷館高校,僕は筑紫丘高校で,大学に入ったときにいろいろと共通の友達もいて,親しくしています。大学のあり方などを,お酒を飲みながら語り合ったこともあります。
杉町
住本先生はすばらしい方ですね。考え方がスマートですし,リーダーシップがありますね。彼みたいな人にずっと医学部長を続けていただいたら九大はどんどん変わりますよね。彼は自分のしっかりした考えとビジョンを持った立派な方です。これまでの医学部長の中でも歴史に残るような部長ではないでしょうか。
中村
もう一つ言えば,医科と歯科では共通項も結構多い。だから,基礎の学問の生化学,薬理学,生理学というのは,実はみんな歯科の中にもあります。
杉町
それは要らないですよ。生理とか解剖も医学部と一緒にして……。
中村
東京医科歯科大学は基礎を統合しました。反対意見もすごく多いのですが,そこは統合すべきだと僕も思いました。
杉町
麻酔科も医と歯で1つでよいと思います。
 ところで,先生は悪性腫瘍,口腔癌もやっていらっしゃるのですか。
中村
はい。

高齢者の口腔ケア

杉町
今,高齢者が増えて,医科のほうでも癌が増えているのですが,口腔内の癌も増えていますか。
中村
母数の問題がありまして,癌そのものの数が増えていますから,その範囲で増えていると思います。今,九大病院のがんセンターのデータを見ると2~3%で,その癌の中での割合は変わっていません。つまり,口腔の癌が発生しやすくなっているということはないですね。
杉町
口腔の癌では,舌癌が一番多いのですか。
中村
はい。
杉町
ほかにどういう癌がありますか。
中村
あとは歯茎の癌。舌癌,歯肉癌の2つが双璧です。
 先ほども話があったのですが,危険因子としてはたばこがあります。たばこが危険因子であることは証明されています。今,たばこを吸う人口が減っていますから,そういう意味では,もしかすると口腔癌は少なくなるかもしれません。実を言うと,東南アジア,インドとかは口腔癌がめちゃくちゃ多い。かみたばこ,ビンロウジュが悪いとわかっているけど,政府は国民全体をなかなかコントロールできていない。
杉町
たばこを吸う人は,だんだん居心地が悪くなってきているみたいですね。
中村
相当居心地が悪いですね。病院でもだめ,患者さんだってだめですから。
杉町
私の病院でも,ホームページに「喫煙者は原則として採用しません」と書いています。面接で,たばこを吸うという人は原則として不採用にしています。
中村
職員ですか。
杉町
はい。
中村
それはすごいですね。
杉町
ただ,ドクターに喫煙者が多く困っています。
中村
僕らも,喫煙していたら口腔癌の専門指導医にはなれない。ただ,何年間禁煙していないといけないという決まりはないので,朝から禁煙していますといったらそれで通ってしまうのですが,一応,禁煙を推進しています。
杉町
ところで,高齢社会では,誤飲による肺炎が増えますので,口腔ケアが重要になりますね。
中村
それは歯科界全体で積極的に取り組んでいるところです。5年前,九大病院の中に周術期口腔ケアセンターを作りました。全ての歯科部門の診療科でそのセンターを運営するんだという形で,今,年間3,000人ぐらいの医科部門の患者さんをケアしています。全国的にも,術後の合併症,特に肺炎とかの予防では明らかに効果が出てきている状況です。
杉町
術前から口腔ケアをしているわけですね。
中村
そのとおりです。
杉町
具体的には,どのようにするのですか。
中村
一言で言えば,きれいにして口腔内の細菌を減らすということです。
 九大病院でそのセンターが作れた理由は,その当時は病院長をされていた久保総長の援助もありましたけれども,麻酔科の外先生と意見が一致したからです。麻酔科の先生は,入院してから術前の診察をするのでは遅過ぎると。僕らも,入院してから歯科に来られて,明日が手術と言われても,時間がないから何もできない。歯磨き程度では見た目しかきれいになりませんから。それで九大は,入院が決まった段階で麻酔科と歯科を受診するように周術期支援センターを作って,入院待ちの間に口の中をしっかり治療する。当然,入院してからも,術後の管理をしますので,肺炎などの術後合併症の頻度は減ってきています。
 あとは,化学療法を受ける患者さん,移植を受ける患者さん,心臓の手術を受ける患者さんも,術前から口の中をケアする。最近は厚労省がバックアップして,例えば人工関節置換術をする整形外科の患者さんも保険適用になっています。口の中をちょっとでも刺激すると,厳密に言えば菌血症を起こします。心臓であれば心内膜炎を起こしたり,いろんな感染症を起こすので,口腔ケアをすることで口腔内の細菌数を激減できますし,少々刺激しても,血中に流れないようにできるということでやっています。

ドライマウス・シェーグレン症候群

杉町
ところで,先生は,ドライマウスとかドライアイ,あるいはシェーグレン症候群の研究では世界のトップだとお聞きしていますが,こういう分野も,ライフワークというか,ずっとやっていらっしゃるんですね。
中村
そうですね。唾液腺が壊れるのがシェーグレン症候群です。実は,いまさっきもお話がありましたけど,免疫の研究をしていたものですから,口腔でかかわりが一番強くて,全く治療法も原因もわかっていない病気でしたので,まずそれを取っかかりにしました。
杉町
これは難病に指定されていますね。
中村
はい。
杉町
原因がわからないのですか。
中村
自己免疫疾患で,膠原病の一つと言われています。ただ,原因はわかっていない。ウイルスであるHTLV-1に感染した方は発症率が高いとか,あとは出産後に高いとか,幾つか報告をしているのですが,原因は一つではないと思っています。
杉町
日本に大体何人ぐらいいるのですか。
中村
100万人はいるだろうと。低く見積もって70万人と言われています。ただ,唾液腺が壊れて口が乾いても,皆さんあまり病気と思っていない。だから,病院に行っていない方もいっぱいいます。
杉町
これは口腔外科ではなくて,内科に行っている患者さんも多いでしょうね。
中村
患者さんは内科,眼科,口腔外科などを受診していると思います。日本シェーグレン症候群学会というのがあるのですが,関わる全ての診療科の医師が参加するとてもユニークな学会です。
杉町
このシェーグレンという方は,スウェーデンの眼科医だそうですね。
中村
そうですね。目が乾く患者さんを診て,口の中も渇いていると。あと,リウマチとの合併が多いものですから,そういう症例報告をされています。僕も,実は家内が留学しているときにストックホルムに行って,生家を探したけれども,見つけられませんでした。ただ,杉町先生にこの話をしなければと思っていたのですが,九大病院に「神の手」がありますね。あれはストックホルムのミレスガーデンに本物があって,そこには行きました。先生,行かれたことはありますか。
杉町
箱根では本物を見ましたが,ストックホルムには行ったことがありません。
中村
あれは二外科が作ったと。
杉町
寄附を集めてですね。日本ではもう一つ箱根に同じものがあります。
中村
なぜあの「神の手」を作ったのですか。
杉町
「神の手」ですから医学と深い関係があるのでしょう。
 歌手の和田アキ子さんもシェーグレン症候群と聞いていますが,これは女性に多い病気ですか。
中村
90数%が女性です。膠原病の中では,強皮症とシェーグレン症候群は女性にすごく多い。
杉町
先生は,口腔外科だけではなくて,口腔内科学会の理事長をされていると聞いたのですが,これはどういうことですか。
中村
口の病気というのは虫歯と歯周病の2つです。僕らの口腔外科というのは,診療科が開設された時から,それ以外の全ての口の病気を担当していました。しかし,どれも手術で治すわけではない。シェーグレン症候群も薬で治すし,口内炎とか粘膜の病気も薬で治す。医科も内科と外科に分かれていますね。だから,口腔にも内科があっていいのではないかと。これは欧米ではオーラルメディシン── 口腔内科と言う。以前からアメリカやヨーロッパには診療科,講座,さらには学会があります。それを日本にも作りました。
杉町
逆に言えば,口腔外科と口腔内科に強いて分ける必要もないわけですよね。
中村
必ずしも診療科として分ける必要はないと思っています。ただ,学問というか,いろいろと学生に教えたりするときの考え方として,分ける必要があると思っています。
杉町
口腔内科学会の会員は何人ぐらいいますか。
中村
1,000人ぐらいです。実は今,九大にはないですけど,口腔内科という診療科を掲げている大学もあります。ただ,口の中の内科だけだと,手術がなくて点数が上がらないものですから,どうしてもこじんまりとしていますね。手術では治せない病気もいっぱいあるけれども,やっぱり昔どおり,口腔外科をする人間が両方やる。学問としては重要ですが,僕も診療科を増やそうとは思いません。口だけでそんなにいっぱい診療科があっても困りますから。

息子さんは筑紫丘高校の先生をされていらっしゃいますか?

杉町
また話は飛んでしまうのですが,先生の息子さんは筑紫丘高校の体育の先生で,ラグビー部の監督をされているそうですね。
中村
はい,そのとおりです。息子は筑紫丘高校に進学してラグビーを始めたのですが,僕はどっちかというと医学系に進んでほしかった。だけど,小さい頃から自分のことは自分で決めさせる方針で育ててきて,大学を受験する時に自分で進路を決めたいと言ったものですから。結局は,国立ではラグビーが最も強い筑波大学に進学し,ラグビーに没頭し,帰ってきて教員になって,今は監督です。
杉町
先生はラグビーではなくて,高校,大学で野球をされていましたね。
中村
はい。
杉町
野球では,九大の歯学部で全国大会で優勝されたと聞いています。
中村
これは堀之内先生の間違った情報で,僕が現役のときには準優勝までしか行かなかった。そして,僕が辞めてからすぐに優勝しました。僕が足を引っ張っていたのかもしれませんね。
杉町
ポジションはどこですか。
中村
内野です。セカンド,ショート,サードなど。
杉町
今でも時々されていますか。
中村
いや,僕は野球が一番嫌いなので,今は完全にやめました。野球は究極の個人スポーツなので,今ではラグビーやサッカーの方が好きです。
写真1 福岡県立筑紫丘高校野球部の頃(最前列左から2番目が僕です)
写真2 九州大学歯学部野球部の頃(賞状を持っているのが僕です)

先生のご趣味は?

杉町
ところで,先生のご趣味は何ですか。
中村
趣味はあまりないです。
杉町
勉強ですか。
中村
いや,そういうわけではないですけど,一つは,キャンプに行くのが好きですね。病院から離れたいという気持ちもあって。
杉町
ご家族でですか。
中村
はい。今はもう子供たちは家を出ましたので,家内と2人で行きます。
杉町
どういうところに行かれますか。
中村
久住とか,山登りが好きです。その次は洗車です。車を洗うのが好きです。医局員には,僕は大学をやめたら中村モータースを開くと言っています。ねじを締めたり,ゆるめたり,工具を扱うのが好きです。
杉町
車は何に乗っていらっしゃいますか。
中村
今は四輪駆動車です。
杉町
それで山に登ったりするのですか。
中村
そうですね。昔,留学から帰ってすぐパジェロという四駆を買いました。その当時,四輪駆動車はほとんど走っていなかったので,ある上司から九大の教員たるものが,あんな野山を蹴散らす四輪駆動車に乗っていいのか,と言って怒られたこともあります。そういう時代でした。
写真3 九州大学歯学部口腔外科の頃(後列の右から3番目が僕で,前列の左から2番目が九州中央病院の堀之内先生です)

抱負をお聞かせ下さい

杉町
最後に,先生ご自身の抱負を聞かせていただけますか。
中村
僕は義理の父が九大文学部の教授だったのですが,家内と結婚するときに,孔子の「師の跡を求めず,師の求めたるところを求めよ」という言葉を教えてくださいました。それは,先人たちのマネをして跡を求めるだけではだめだと。ただ,先人たちの目指したこと,例えばこれを解明したいとか,この病気を治したいという気持ちは今も昔も変わらない。だから昔の学問をきちんと勉強して,昔の人たちが何をしようとしていたかも知った上で,自分のオリジナリティーを出しなさいというようなことをお酒を飲みながら教えていただいた。それがずっと僕の座右の銘です。
 現在の副病院長の職でやり続けたいのが,医科歯科連携の強化です。今,厚労省のほうもすごく力を入れてくれていますから。やはり歯科も医療の一分野だと。先生が中央病院で作られたように,実は全国的にも病院歯科が増えてきていますが,やっぱり点数がつかないと歯科医師が評価されませんので,厚労省が周術期の予防に点数をつけてくれるようになった。そのお陰もあって,病院歯科が増えてきています。
 整形外科の岩本先生が外に出られて,2,3ヵ月前に飛行機で会ったとき,「中村君,周術期はどう?」って聞くから,「九大では実績が上がっていますよ」と言ったら,次の週には「来年,歯科を作る」と電話がかかってきました。人を輩出するのは大変ですけど,ある程度の病院には歯科を作ってもらいたいと思っています。
杉町
大きな病院には当然歯科はあったほうがいいですし,九州中央病院も最初は堀之内先生だけだったのですが,今は常勤が3人と非常勤が1人いる。その4人でやらなくてはいけないから,非常に忙しい。
中村
一般の歯科だけをしてはだめです。
杉町
そうですね。でも,やっぱりそのドクター次第ですね。いい歯科の先生がいらっしゃればその病院はどんどん発展します。
写真4 アメリカ留学中の恩師のDr. Fu が来日した時のオクラホマ同窓会(左奥が久保総長ご夫妻,左手前が福岡市立こども病院の原病院長。右奥がDr. Fu ご夫妻,右手前が僕ら夫婦です)
写真5 Dr. Fu と一緒に九州大学総長室を訪問(右端から僕,Dr. Fu,久保総長です)

病院勤務の歯科医は如何にあるべきか

中村
だから,そういう病院の歯科が何をすべきか。一般歯科ではなく,先生も言われるように,口腔外科とか病院の中の周術期の管理ということで,やっぱり求められているところは何かというのを,きちんと考えてやらないとだめだと思います。
杉町
病院には医科のドクターがいるのだから,そのドクターと一緒になって一人の患者を診るという気持ちが必要ですよね。
中村
あともう一つは,全身がわかる歯科医が本当に少ない。僕も先生の前で「全身がわかります」とは口が裂けても言えないのですが,全身の病気をある程度の自信を持って管理して,必要なときにきちんと医師と対診しながら診られるようにしないといけない。
 今,教育は変わってきて,歯科医師国家試験は相当難しくて6割しか通らない。ただ,歯科医師が多過ぎるというのも理由の一つです。
杉町
6割というのは良くないですね。最初から歯科の定員を減らして,学生を減らしておかないと,国家試験に受からなかったら可哀想ですね。6年間が無駄になりますね。
中村
歯科は私立大学のほうが多い。国公立は全国に12しかないけど,私立は17もある。僕のときの国立の定員は80人でしたが,今は53人。国立は文科省から言われるから減らすのですが,私立はあまり減っていない。では,どうやったら減るかということで,そうやって国家試験を難しくするというのは一つの方策だろうと思います。
杉町
それは可哀想ですね。
中村
先生がおっしゃるとおり可哀想ですよ。私立大学で歯科医師免許を取らせるというのは,親御さんたちに対する契約に近いところがあると思うので,そこら辺のあつれきが相当あります。
杉町
福岡の私立の歯科大学では,優秀な学生が集まらないと聞いています。
中村
この前の国家試験では合格率が低かった。そうすると,免許が取れるというのが最低条件なので,入学者がすぐ減る。でも,福岡歯科大学も,優秀な学生はたくさんいます。九大病院の研修歯科医のうち,九大卒は半分です。自校率は全国で一番低い。九大には,どの大学の卒業生でも優秀な人は受け入れますというのを売りにしている。やっぱり西日本が多いですけど,鹿児島大学,長崎大学,九州歯科大学から来る。だから,九大の連中には,勉強しないと研修医として残れないよ,研修できないよと。でも,それが5割を切ってしまったので,どうにかしないとと思っています。九大の学生は他大学の学生に負けないように勉強をして欲しいです。
杉町
本日はお忙しい中おいでいただきまして,ありがとうございました。日ごろはなかなか聞けないような面白い話をお伺いすることができました。
 九大の口腔外科のますますのご発展と中村先生のご健勝をお祈りいたします。本日はありがとうございました。

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