高齢者人口が増え続ける結果、認知症の有病率が年々上昇している。「認知症は専門医に」と言っていたのでは、地域の認知症患者に適切な医療と介護を供給することは覚束ない。非専門医だからこそ認知症を診なければならない時代が来たといえる。
とは言っても認知症の診療は鑑別診断が多岐にわたり、薬もやや特殊なものが多いので、腰が引けるのはやむをえない。
そこで筆者は「まずはアルツハイマー病だけを診ましょう」と提言したい。何と言ってもアルツハイマー病は認知症の大部分を占めるので日常遭遇することが多いし、多くの実地医家は既にかなりの数の患者さんと接しているはずだ。
まず認知症のあるなしは中程度まで進んだ患者であれば、医師でなくても家族でも診断できる。物忘れが原因で社会生活に支障が起こり、何度も同じことを聞き返す。日付が言えなくなる。薬が管理できなくなる、などなどの症状があれば認知症があると判断するのは難しくない。
問題は軽症のアルツハイマー病患者である。度忘れ、固有名詞忘れ、直前に何をしようとしていたか忘れるなどの症状はあるが、少しすると「ああ、そうだった」と思い出すのは生理的といえる。「物忘れをします」と家族は言うが、それがどんな物忘れで、生理的な物忘れとして許容できる範囲か否か、吟味・評価しなくてはならない。微妙なときは、専門医でも診断が分かれるのであまり心配する必要はない。「今ははっきりしないけれど、悪くならないように見守る必要があります」と説明して経過を見ればよい。認知症なら進行してくるはずだ。経過を見て判断して良いし、むしろそうすべきであるのがアルツハイマー病を代表とする変性性認知症だから、診断をすぐにつける必要は毛頭ない。
認知障害があることがわかったら、アルツハイマー病であることを確認する作業に入る。アルツハイマー病は何時とはなしに始まって徐々に進行していく病気である。
(2012.02/20)